中年男性の4人に1人はキャンペーンの対象外です。

Visions of Tokyo (Lurking) by Marianone.
TOKYO NATIONAL MUSEUM – The Gallery of Horyuji Treasures( by Marianone)

今日は朝っぱらから脱力するようなニュースが。

政府が「眠れてる?」呼び掛け 自殺対策強化月間で(47NEWS)

政府は例年自殺する人が最も多い3月を「自殺対策強化月間」と定め、 1日、うつの兆候の睡眠不足の自覚を促すキャンペーンを始めた。自殺対策担当の福島瑞穂消費者行政担当相らが東京都港区のJR新橋駅前で、出勤途中のサラ リーマンに「お父さん眠れてる?」と書かれたチラシ入りのティッシュを配った。

いや、キャンペーンはいいんですよ?素晴らしいことだと思います。だからって、なんでそのコピーなのさ、お父さん以外の人はどうでもいいんかい、と思ってぐぐってみたら出てきた「3 月に自殺対策キャンペーン 「お父さん眠れてる?」 ( 山梨日日新聞 みるじゃん)」 によると、自殺者の4割を占める中年男性をターゲットにしているらしい。

なるほど。即効性を求めて、ターゲットを絞って訴求しようというわけだ。つまり中年男性=お父さんだと思ってこのコピーなわけですね。じゃ、はたして「お父さん」でターゲットとなる中年男性のどこまでがカバーできているのかを現実逃避がてら調べてみました。

といっても、「お父さん」の数を年齢階層別に数えた統計データは探しても見つからなかったので、以下のような手順で推計してみました(もしそういう数字をご存じの方がいらっしゃれば、教えてください)。

ターゲットの明確化:中年男性ってそもそも誰のことでしょう。

警察庁の統計(平成20年度)(PDF)によると、自殺者のうち30代から50代までの男性で4割をしめている。上記記事の数値とも一致するので対象はこの世代と仮定し、話を進める。

では、中年の「お父さん」はいったい何人いるのか。

便宜上、「お父さん」=未婚の子供と同居している父親、とみなして、以下の手順で推計する。

1.平成20年 国民生活基礎調査の概況より、「夫婦と未婚の子」「一人親と未婚の子」「三世代同居世帯」の数を抽出
1)夫婦と未婚の子 14,732千世帯
2)一人親と未婚の子 3,202千世帯
3)三世代同居世帯 4,229千世帯

2.「一人親と未婚の子」の親の大多数は母親だと思われるのでそれを除く
同調査 世帯類型別世帯数の「父子家庭:92千世帯:母子家庭 701千世帯」の比率より、
「一人親と未婚の子」のうち、親が父親な割合は約12%と推定
→2’)父親と未婚の子 3,202千世帯×12%=384千世帯

3.三世代同居世帯にも相当数父親が不在のケースはありそうだが(離婚した娘が子連れで出戻るようなケース)、数えようがないのでとりあえずそのままにしておく。

4.1つの世帯に「お父さん」は一人と仮定すると、同居の未婚の子供がいるお父さんは、
1)+2’)+3)=約19455千人。 ただし全年齢。したがって、「中年(30-59歳)のお父さん」の数はこれを超えることはない。

このキャンペーンはどのくらいの割合の中年男性をカバーしているのか?

1.「中年男性のお父さん」の数は最大で19,455千人を超えない。

2.総務省統計局・平成20年10月1日現在推計人口より中年(30歳~59歳)男性の人口は、26,339千人(同上)

3.つまり、「お父さん」でカバーされる中年男性の割合は、最大にみつもって19,455千/26,339千 = 約74%。実際はこれよりも少なくなる。

4.「お父さん」と呼んでもらえない中年男性の数は、少なくみつもって26,339千(30-59歳男性人口)-19,455千(全年齢「お父さん」人口推定値)=6,884千人。

ざっくりと、少なく見積もっても約700万人が中年男性でありながら、「お父さん」じゃない人。割合にすると、自殺防止の主要ターゲットとされている中年男性の26%、すなわち少なくとも4人に1人はこのキャンペーンとは無関係。 ※実際にはもっと多いと思われる。

助けを必要としているのは誰なんだろう。

少し古いデータなのですが、平成12年度の性別・年齢階層別・婚姻状態別の自殺率(厚生労働省の「人口動態時計特殊集計」)によると、有配偶者に比べて未婚・死別・離別状態の中年男性の自殺率はおおむね3倍~10倍程度となっています。もちろん有配偶者=子供あり、というわけではないですが、経験的に、30代~50代の男性では相関は有意に高い指標であると思われます。

さて、このような現状の下で展開されているこのキャンペーン、本当に助けが必要な人に届くキャンペーンだと言えるのでしょうか?

それとも子供のいない中年男性なんて、政府は知ったことじゃないっていう、緩やかな意思表示なのでしょうか。

20:00追記: (+3/2 0:30 若干末尾に追記)

ちょっと考えれば、身近にいて自分を気遣ってくれる家族がいない状況が、決して自殺を止める方向に作用しないことは容易に分かると思う。なのにあえて「お父さん」というキーワードを持ち出すことで、決して少なくはない数の人に逆に自分の孤独を自覚させるということに思い至らないのは、あまりにも想像力が欠如しているとは言えないだろうか。

自殺防止の話にしろ孤独死の話にしろ、「家族の絆が、気遣いが大切です」ってのはものすごく危険な思想だと思うので、私は賛成できない。人の生存をギリギリのところで支える仕組みが、家族であろうとなかろうと他人の善意をよりどころにして成り立つようなものであってはならないと思う。

なぜなら、善意を持つ人ほど、自分ができなかったことに対する後悔と苦しみが心の中に降り積もっていくから。

優しい人ほど生きているのが辛くなる。そんな仕組みなら、いっそない方がマシだ。

カテゴリー: 日記   パーマリンク

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